| 2007年10月29日Vol.21 |

それも、主におとなのためのものとして、昔からアジア全域に広がって、土地の人々に愛されてきました。
日本には人形浄瑠璃・文楽がありますね。ユネスコのいわゆる「世界遺産」にもなった、世界に類をみないほど洗練された人形芝居です。それに加えて地方ではいまも伝統人形芝居の座が約120座ほど上演活動を続けています。いわば「人形芝居大国」なのですが、これは日本の特殊性というばかりでなく、アジアの人形芝居圏の一員である証、でもあるのです。この仕事を通して、アジアの人たちは共通するものを多くもった私たちの隣人、ということを実感してきました。
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![]() ミャンマーの糸あやつり
copyright 古屋均 ![]() 台湾の布袋戯
copyright 古屋均 ![]() 中国・泉州の糸あやつり
copyright 古屋均 ![]() ラオス国立人形劇場
copyright 木村洋一 ![]() カンボジアの大型影絵芝居スバエク・トムとそれを演じる長老
copyright 古屋均 |
招聘公演を通じて伝統の復興の現場に立ち会う
カンボジアの影絵芝居の場合
こうした人形芝居を、1993年から毎年継続して招聘公演をおこなってきました。これまでに紹介した国や地域は、インド、インドネシア、カンボジア、ミャンマー、ラオス、中国、台湾。そして日本から信州の伝統人形芝居も、アジアの芝居としての切り口でラインナップに加えました。すべて自分で現地に出向き、その風土の中で、自分で見て、感じて決めてきました。
選択の基準は、数ある人形芝居の中でも、文化や風土の違う日本で、いま、おもしろい、刺激的であること、です。でもけっして豊かな国日本が、他国の芸能を消費するという立場をとってきたわけではありません。
1997年には、先に触れたカンボジアの影絵芝居を招聘しました。幻想的で壮麗な大型の影絵芝居です。当時はまだ内戦の傷跡の生々しく残る時代で、本来の伝承地のアンコール地方では、生き残りの長老は健在ながら、影絵芝居は久しく上演されず、その弟子筋にあたる国立劇場が首都プノンペンで現代的アレンジを加えた短いバージョンをかろうじて演じている状態でした。アンコールの地で、3年ぶりという長老たちによる上演を見せてもらい、プノンペン国立劇場版も見た上で、もとの流れはひとつである二つのグループの合同公演を行うことにしました。すぐれた芸能でありながら、長老の一座は単独での上演には耐えられない状態でした。もっとも長い歳月のうちに、両者の方向性はいろいろと違ってきていて、遣い手の身体の動き、基本姿勢も違います。また長老の一座は7日7夜をかけて長い物語を演じるのに対し、国立劇場はエッセンスを1時間でみせるというぐあいです。それを乗り越えるべく、長老一座がプノンペンに泊まり込み、両グループが3週間連日の稽古をおこなって、日本公演バージョンをつくりあげました。私もそのうちの1週間、毎日稽古に立ち会いました。ほんらいは長老を師としながら、隔たってしまった表現の方向性。長老のいらだち、厳しい指導、稽古の現場は緊張の日々が続きました。
日本公演は、さすがに7日7夜というわけにはいきませんから、国立劇場のディレクターによる90分の作品とし、精神や表現の手法、技法は長老を最大限に尊重することを、創造の基本としました。公演はこの演者の熱意と自分たちの文化への誇り、そしてカンボジア社会の復興のいぶきを熱く伝える舞台として、多くの観客から支持を得ました。長老の稽古に耐えて、典雅でありながら力強い演技を見せてくれたからこそ生まれた感動だったと思います。
この企画を決定する段階では、これは外国人のおせっかいではないのか、現地の事情を無視した僭越な行為ではないのかと、悩みました。が、両者の上演を見、彼らの話しを聞くうちに、「それをやってもいいんだ」と思うにいたりました。詳しくお伝えする余裕がありませんが、長年上演の機会を奪われてきた長老の中に、演者としての「血」が騒ぎだす、そのドクドクと流れはじめる音が聞こえてきた瞬間があったのです。
いまを生きるための劇団の奮闘、アジアの人形芝居の未来へ
4カ国共同ワークショップと学校交流公演
問題をかかえているのはカンボジアばかりではありません。それぞれの歴史的、社会的事情、または近代化とともに伝統文化を支えてきた地域社会が急激に変貌し、人々の意識が変わる中で、どの国や地域でも、伝統人形芝居は厳しい状況におかれています。観光に活路を開くミャンマー、劇場芸術化と海外公演で活性化を図る中国(泉州の糸あやつり)、テレビや映画、DVDなどのメディア進出で商業的成功をおさめる台湾、伝統的精神世界を新しく自由な現代的作品で表現するラオス、孤児たちの劇団が誕生しアートセラピーとしても活用されるカンボジアの(小型)影絵芝居・・・これを書いているいまも、同時代の人たちの心を捕らえるために、演者たちはそれぞれに工夫をこらした活動で、まさに奮闘中です。
私たちは彼らと、いっしょに伝統を未来へ拓くためにいっしょに仕事をしていこうと考えています。なぜなら、日本も含めたアジアの人形芝居には、経済効率が優先する社会の中で見失われがちな、たいせつなものが生きていると考えるからです。人間の力を超えたものへの恐れと謙虚さ。それが人形芝居の創造のベースとなり、強いパワーを発散しているのです。
[東南アジア+日本の共同ワークショップ]
今年3月にはユネスコアジア文化センターとの共催で、東南アジア3カ国の劇団に日本の伝統と現代、それぞれの劇団を加えた共同ワークショップを開催しました。参加劇団がそれぞれに発見しあい、元気を与えあった創造的な試みになったと自負しています。
[学校交流公演]
また、数年前から招聘の際に、学校での交流公演をプログラムに加えています。
これまでの経験から、やはり異文化への理解、特に欧米に比べていまだに情報が少なく、関心が高いとはいえないアジアへの理解は、感性が柔らかい若い世代から必要だと痛感するようになったからです。冒頭に書いたように、人形劇は隣近所のアジアの人たちを知るための絶好のアイテムなのですから。現在は、国際理解のためのコースやカリキュラムをもつ総合高校を対象にしています。上演に加えてそれぞれの国や生活についてのお話や、人形や楽器の説明、簡単な人形体験など、従来の「鑑賞教室」を超える、演者とのふれあいをたいせつにするプログラムです。芝居を知るだけではなく、悩みながら伝統をいまに生かそうと努力する人形遣いたちを、同時代人として感じてもらいたいのです。実際に、柔軟な発想の先生たち、そして生徒たちの強い好奇心とそれを愉快に受けとめる演者たちによって開放的な雰囲気で進められてきました。今年は地元である神奈川県下5校で開催します。
息の長い種まきかもしれませんが、人形芝居を通して、演者との交流を通して、ほんとうの意味でのグローバルな視野をもった世界が実現していくためにささやかながら、働いていきたいと思っている、といったらちょっとおおげさに過ぎるでしょうか?
<お知らせ>
人形芝居の日本初公演。 (このほか、神奈川県下5校で学校交流公演・非公開) お申し込みとお問い合わせ: 財団法人 現代人形劇センター 電話: 044-777-2228 E-mail: mailto asia@puppet.or.jp |
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