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No.42 MAY 2002/特集 
特集 雨
噴火が降らす雨の化石
雨粒が噴煙中を落下すると、細かい火山灰をどんどん取り込んで成長する。
写真家・サイエンスライター 白尾元理

火山豆石の堆積層 1991年5月末、噴火をはじめたばかりの雲仙普賢岳の山麓にいた。空は梅雨の走りを思わせる一面の曇天、小規模な火砕流から立ち上った赤黒い噴煙が頭上を覆った。まもなく直径数mmの凝集した火山灰の粒がパラパラと雨のように降ってきた。それが火山豆石(まめいし)だった。
 このような火山豆石ができるには条件がある。大気中に十分な水分があること、細かな火山灰を巻き上げる噴火が起こっていることの二つである。細かな火山灰の粒子は数ミクロン~数十ミクロンの大きさで、この粒子が集まって直径数mm~数cmの火山豆石をつくる。接着剤になるのは水分である。雨粒が噴煙中を落下すると、細かい火山灰をどんどん取り込んで成長する。
 水分は、最初から大気中にあったものでなくともよい。地下のマグマの通り道には帯水層があり、出口には火口湖がある場合が多い。このような場所で噴火がおきると、マグマは水と接触して細かく引きちぎられ、大量の細粒火山灰が生じる。くわえてマグマの熱によって大量の水蒸気が発生し、マグマ水蒸気噴火となる。細粒火山灰と接着剤となる水蒸気粒子に富んだこのような環境は、火山豆石が成長するにはうってつけの場所となる。
 マグマ水蒸気噴火には、最近数千年間に起こったことのないような大規模なものもある。支笏湖、洞爺湖、十和田湖などのカルデラ湖をつくったような巨大噴火である。このようなカルデラ湖は数万年ごとにおきる数回の巨大な噴火によって形づくられる。十和田湖は13,000年前、当時の湖底で噴火がはじまり、巨大なマグマ水蒸気噴火となった。
 この噴火で積もった火山豆石を含む厚さ2m以上の地層は、現在でも十和田湖の東側に広く残っている。
 熱い火山豆石の雨が降り続く噴火中は、昼でも夜のように暗くて文字通り一寸先は闇、降り積もった火山豆石は流れ去ることもなく、不気味にその嵩を増し続けただろう。当時のこんな地獄絵を想像すると、やはりシトシトと降る水の雨の方が有り難い。

【Motomaro Shirao】
1953年東京都生まれ。東北大学理学部卒。東京大学理学系大学院修士課程修了。写真家・サイエンスライター。1986年の伊豆大島噴火をきっかけに本格的に写真活動をはじめる。現在は世界の地形・地質の撮影に取り組んでいる。写真集に「日本列島の20億年」(岩波書店)、著書に「火山とクレーターを旅する」(地人書館)、「双眼鏡で星空ウォッチング」(丸善)など多数がある。


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