コンプライアンスを実りあるものとするために
田中 本日は、コスモ石油グループのコンプライアンスということを中心に、専門家のお二方と担当役員の近藤常務とともにお話を進めていきたいと思います。
お話に先立ちまして、近藤常務より、昨年の製油所事故および一連の法令違反の経緯、さらに再発防止策として、「安全管理体制の再構築」、「企業倫理遵守の強化」、「生産部門けん制機能の強化」に取り組んでおられるというご説明をいただきました。専門家のお二人は、どのようにお感じになりましたか。
水尾 原因は2つあると思うのです。ひとつは、安定供給を安全より優先した。もうひとつは、専門の領域なのでだれもわからないだろうという意識です。いわゆる仏つくって魂入れずで、一人ひとりの本音のコンプライアンスになっていなかったのではないでしょうか。
郷原 昨年の反省を受けて、考え得る限りのあらゆる措置がとられていると思いますが、その中で何が重要な点なのか、メリハリをつけながら考えないと、コンプライアンスは持続しないと思うのです。
田中 一人ひとりのコンプライアンス意識ということでは、組織が大きければ大きいほど、自分に落とし込むとどうなるのかという意識づけが難しいのではないでしょうか。
水尾 コスモ石油さんの場合、特に技術者倫理ということが重要です。これには2つのポイントがあって、ひとつはトップのコミットメント。要は、本音でやるんだということを、トップが全社員にコミットメントをすることです。その次は、下からのボトムアップです。現場の人たちをどのように巻き込んでいくか。その2つが一緒になって初めてコンプライアンス、安全文化ができると思うのです。
郷原 トップのコミットメントについては、安定供給と安全の問題とのバランスをどのあたりに持っていくのかについての考え方が明確になってないといけないですね。
近藤 今のトップの考え方は、安全にかかわることであれば決して勝手に判断せずに、どんなに小さなことでも必ず行政監督官庁に連絡し、補修が必要な場合にはきちっと止めて補修する。
その考え方が徹底して出されています。監督官庁でも、公益性の点から法令の運用面では柔軟に対応していただいていますので、懐に飛び込んで確認しながら、安全性を確保していくという関係が生まれてきました。
郷原 自分たちの判断だけではなくて、行政とのコラボレーションの中で安全を客観化していくことも重要なアプローチですね。
田中 2007年度の取り組みについて、近藤常務から具体的にお話しいただければと思います。
近藤 昨年度の事故および法令違反を受けまして、再発防止のための仕組みは確立しつつあると思っております。2007年度は、その中に魂を入れることの必要性を非常に感じております。目の前の利益のためにコンプライアンスを後回しにしていないか、我々の常識が社会の常識とずれを生じていないか、風通しのいいコミュニケーションをきちんと確保するためにどうするのか。それから、製油所に入っている工事関係の会社や、販売関係では特約店さん、さらに行政も含めて、パートナーとの良好な関係作り、問題の共有なども重要です。それらを2007年度の中心に据えたいと思っております。
田中 魂を入れていくには、社内のコミュニケーションがますます重要になってくると思います。実際、まだまだ社内にもいろいろギャップがあるのが企業の常だと思うんですね。
水尾 ソクラテスの言葉に、「コミュニケーションというのはまず自己との対話だ。自己の内省からスタートしてコミュニケーションの原点がある」というのがあります。それができていないと、相手には絶対に伝わらない。部下マネジメントの意味からも、コミュニケーションの原点だと思いますね。
近藤 現場の管理職が、自分自身で噛み砕かないで、何となく会社の方針なんだといって伝えてしまうと、聞くほうも何をいっても仕方ないということになり、押しつけに感じてしまう。
そうならないように、常に意識して対話していくことが重要ですね。
郷原 かつて、理想の上司とは、部下がやることに口を出さずに、それで責任をしっかりとってくれる人だといわれました。しかし、やりたい放題やらせて責任をとるということは、実際にはできないのです。世の中の変化が緩やかな時代にはそれで済んだのですが、社会の変化、環境変化が急激になると、重要なのはリーダーシップです。
上司が直接前線に出て、やるべきことを部下に示すと大きな一体感が生まれます。きちんとやれる人間が自分たちの仕事ぶりを見ていると思ってもらうことが非常に大切です。
水尾 いわゆる「怒鳴り、丸投げ、突き返し、見ない、指示なし、無関心。」そういう昔のマネジメントがある組織は、オープンなコミュニケーションができない。今は「サーバントリーダーシップ」、すなわち部下の成長を支援するマネジメントが必要です。日本では問題が発生したときに、文化的タブーというのがあり、なかなか口に出せない。これが今までの日本の組織で閉塞状況になって問題が発生する一番大きな原因だと思います。
郷原 今回の問題というのはヘルプラインが機能したという非常にまれな例です。ただ、逆に言えば、こうした課題がヘルプラインでしか通報されなかったことに反省の余地があるともいえますね。
田中 常務ご自身は、この事故後の取り組みで、社内の意識改革についての実感は得ていらっしゃいますでしょうか。
近藤 はい。事故と法令違反の後の社内でのアンケート調査などでも、コンプライアンスや安全の確保に対しての意識が過去よりも非常に高い数字で出てきております。けれども、コミュニケーションというものは、常に一方通行になりがちですので、まだまだ努力の余地があると感じています。
田中 そこから突き抜けて、さらに取り組みを良いものにしていくために、ご提言がありますでしょうか。
水尾 私が1997年に資生堂で初めて企業倫理委員会を立ち上げたときのことですが、私1人で全国2万人の社員を束ねるというのは到底できないので、行動基準(THE SHISEIDO CODE)を現場に浸透・定着させる仲間たちを「ザ・コード・リーダー」と名づけて募集しました。そして、若手からベテランまで、男女性問わず、全国に411名の私の仲間をつくり、草の根のコンプライアンスを通して意識の自己増殖を図ったという体験があります。コスモ石油でも、コンプライアンス委員会、各部門の推進責任者という縦のラインに加えて、横のラインあるいは斜めのラインを機能させる方法もぜひ考えていただきたいと思います。
郷原 法令、規則を守ること。それはもちろん一番重要ですが、コンプライアンスのレベルを組織全体で高めるためには、単に今ある法令、規則をそのまま遵守することだけではなく、その法令、規則を自分たちのものにしていく。社内規則も含めて、現場の実態を踏まえて、必要があれば見直して、新たな要請に応えていく。それが次のステージのコンプライアンスだと思うのです。
水尾順一氏
駿河台大学経済学部・同大学院経済学研究科教授、経済研究所長
株式会社資生堂在職時に日本企業で初の企業倫理の立ち上げに関与。その後、大学でマーケティングと経営倫理の理論と実務を融合させ、「マーケティング倫理」を構築。現在はCSRの研究に取り組む。
郷原信郎氏
同大学コンプライアンス研究センター長
東京地検特捜部、長崎地検次席検事などを経て、2005年より現職。「社会的要請に適応する力」としてのコンプライアンスのあり方を提唱。
田中里沙氏
広告会社を経て、1993年株式会社宣伝会議入社。1996年編集長に就任、現在にいたる。
2003年より「環境会議」「人間会議」編集長を兼任。広告宣伝戦略、マーケティングトレンド分析の専門家として、政府・行政の広報評価委員、アドバイザー、各種広告賞審査員としても活躍している。
近藤直正
(※出席者のプロフィールは2007年3月31日現在のものです)



